KK-SPIRIT-interview

「男泣きアニメ劇場」(2004年・大洋出版)インタビュー記事。
再録にあたり、大洋出版、竹熊健太郎氏に承諾いただきました。

伝説のアニメーター吼える。
木村圭市郎 男泣きロングインタビュー

聞き手:竹熊健太郎



空前の格闘ブームに沸く21世紀の日本。
今ここに、格闘アニメの父と呼ばれた伝説の”漢”が地響きとともに降臨する!
『タイガーマスク』で一世を風靡したアニメーター木村圭市郎。只今見参!


アニメ界のコワモテNO・1

「(昔の写真を見せて)俺がまだ若い頃の写真なんだけどさ、見るかい」

――か、梶原一騎・・・・・・(笑)。

「昔はさ、道歩いてるとどこかの若い衆が挨拶してきたもんだよ。俺と女房が歩いてると”姐さん”とか言われてね。ワイフもビビッてたよ。
梶原一騎さんともよく間違えられたね」

――お生まれはどちらですか。

「生まれは昭和13(1938)年4月5日。出身は群馬の沼田市というとても景色の良い所。俺がまだ二つか三つの頃に2・26事件があった。
だから物心ついたのは戦時中。もともと俺は映画監督になりたくてさ、実写の。だからアニメをやりたかったわけじゃないんだ。
新東宝に高橋さんって方が居てね。彼に映画会社になんとしても入りたいとお願いしたら、これからはアニメーションの方が将来性がある
と体よく断られてね」

――すると、東映に入られたのが・・・・・・。

「正確な年はよく覚えてねえ。最初に下っ端で仕事をしたのが『シンドバッドの冒険』(61年)だから、そのあたりだ。アニメの経験は全
然なかった。ただ東映動画の入社試験が、十人とるのに五、六百人来たんじゃないの。よく入れたと思うよ。面接の時に”君は絵を描くタ
イプじゃないな”と言われたよ。
 俺はスポーツやってたからな。サッカー。バスケ、柔道・・・・・・なんでもやった。結局アニメーションは自分が出るわけよ。だから
蹴るにしても、ガっと蹴ってからカメラをグーンと煽ったりとか。自分のそういう感覚が出るよね。よい例が『タイガーマスク』 」

昔”木村走り”ってのが流行ったらしいよ

――タランティーノの、『キル・ビル』はご覧になりましたか。

「見た、見た。あれはいいね」

――あの作品に挿入されているアニメーションは日本のプロダクションI・Gがやってるんですけど、かなり木村アクションを意識してい
るなあと思いました。

「あ、そういえばそうかもね。あの荒い線のタッチ、輪郭線が何本もあるような。あれは『タイガーマスク』(69年)の作画監督をやった時、
俺がゼロックスコピー使ってやったのと同じだ。今、クオリティではI・Gが一番じゃないか。2番がマッドハウス。それで3番は・・・・・・」

――ジブリは出てこないんですね(笑)

「ジブリ?俺の頭の中にはないなぁ」

――ははは・・・・・・。

「昔、”木村走り”ってのが流行ったらしいよ」

――タイガーマスクでこう、肩を張って両手を横に突き出す走り方ですね。

「あれの原点は『レインボー戦隊ロビン』(木村氏が最初に作画監督を務めた作品)なんだ。当時子どもの間であの走り方が流行ったって
ファンクラブの人が言ってたね。でもあれは三十年以上前の走り方だからな、今はもっと別のアクションにしなけりゃ。完全に”木村ワールド”
になったのは『タイガーマスク』からだろうね。最近、桜庭選手のCMでタイガーのアニメが使われただろう。あれは俺がやったオープニング
を使ってるんだけど、今見ても動きにメリハリがあるだろ?」

――東映動画というと、森やすじさん(東映動画の基礎を築いたアニメーター)に代表される可愛いキャラクターの印象がありますよね。
宮崎駿さんも森さんの系統だと思うんですが、一方で木村さんの劇画路線というか、肉弾アクションもある。

「オーバーアクションというのは俺が好きなんだね。『タイガーマスク』にしても、原作者には悪いんだか、わざと荒いイラストタッチに
したりとか、今までに無いような実験するのが好きなんだ」

俺のアニメはロックンロールだ!

――それで当時の東映動画はどういう雰囲気だったのか。アニメ史の本を見ますと、とにかく高畑勲=大塚康生=宮崎駿の労働組合ラインで
話が作られているんですよね(当時高畑が東映動画労働組の委員長、宮崎が書記をやっていた)。つまり『太陽の王子・ホルスの大冒険』(67年)
の参加メンバーで歴史が語られている。でも木村さんは『ホルス』に参加していないですよね。

「参加していない。俺はTVの仕事で忙しかったからな。『サイボーグ009』や『佐武と市』とか。まあ、俺は『タイガーマスク』で周囲
と喧嘩しながらメチャクチャやったからね。それで敬遠された感じがあるね。大塚さんの『作画汗まみれ』って回顧録があるけど、あそこ
に俺の名前は一言も出てこない。でも当時、大塚さんは毎日のように俺の家に来てたんだよ。勝手に冷蔵庫のぞいてさ(笑)」

――木村さんは最初の『ルパン三世』で原画もやられてますね。あれは大塚さん(ルパンの作画監督)からの依頼なんですか?

アニメってのは、本来面白い仕事なんだよ。道楽が仕事になるんだから

「いや、おれはもともと制作元の会社と仲良かったからね」

――すると、木村さんが思いっきりやれたのは、やはり「タイガーマスク」ということに。
「あれは俺にしか出来ないんだから。まあ、俺は東映では場違いだったのかもしれないね。みんな労働組合なんて作ってさ」

――組合には入ってなかったんですか。

「忘れたよ。少なくともやる気はなかったね。だってアニメってのはね、本来面白い仕事なんだよ。道楽が仕事になるんだから。共産党が
どうしたとか、民衆がどうしたとかじゃないんだよ。宮崎さんも昔はディズニーなんて目の敵にしてたんだ。資本主義の手先だとか言って」

――それが今ではディズニーと提携してますね(笑)。

「そんなもんなんだよ。商売優先だな。宮崎アニメで気に入らないのは、セリフの時に表情がないんだよね。当たりさわりのないレトロ調
を懐かしんでいるだけだ。音楽に例えるならば彼のアニメはまあ、童謡か民謡だろ。いろいろジャンルがあっていいんだけど、俺のアニメ
はロックンロールなんだよ!」

アニメは、動いてナンボだろ!

――劇場作品には、木村さんはどの程度関わられているんですか。

「一本立ちしてからだと、『サイボーグ009』の劇場版かな。まあ1時間程度の作品で、俺らは中編と言ってたけどね」

――『サイボーグ』の中編は二本ありますよね。正編と、続編の『怪獣戦争』。

「まあ今見るとかったるいけどな。でも人気があったんで、二本やった。俺の作画を石ノ森さんは気に入らなかったようだけど。
主役の両目を見せちゃったからな」

――ああ、原作だと島村ジョーは、必ず片方の目が髪の毛で隠れてますね。

「だってアニメは動くんだから。風が吹いて髪が動けば両目だって見えるだろ。そしたら石ノ森がありゃ俺の絵じゃないってな。
あと、俺はタツノコプロの仕事もけっこうやった。『紅三四郎』とか。俺が参加した回で棒術師が出てくるエピソードがあるんだが、
それの原画を描いたら、しばらくオープニングに使われたりね」

――木村さんは、原画を描くのがメチャクチャ早かったとか。

「最高で、そうだな。一晩80カットってのがあった。『荒野の少年イサム』をやったときだ。『タイガーマスク』のときは、
だいたい一晩で30カットから40カット」

――考えられないスピードですね。

「俺はね、作打ちして一週間くらいは遊んでる。それで締め切りが近づいたらエイヤっとな。こないだ昔の仲間に”今でもその気になれば”
といったら、歳を考えろといわれてね、それもそうだなと(笑)。アニメってのは動いてナンボだからね。今の作画監督は動きがわからない。
絵がキレイに描けてりゃいいと思ってるやつが多すぎるのよ。顔がよく見えなくたって、動かせばちゃんと見えるんだよ。
作監はさ、それじゃ自分の仕事がなくなるから余計な手をいれるんだけど、なんにもメッセージが伝わらない」

俺と組む演出家は大変だな

――『タイガーマスク』は企画から参加されているわけですか。

「いや、企画はしてないよ。キャラクターは社内コンペで決まったんだ。プロレス物で迫力があった方が良いという訳で、
木村で行こうということになったらしい。ところが俺がゼロックスコピー使って荒い絵にしたんで問題になったが、
局のプロデューサーが気に入ってくれて制作もスタートした。原作者の辻なおきさんからは「よろしくお願いします」
なんて頭を下げられたりしてね。普通原作者というのは、自分の絵と違うと嫌がるもんなんだけどね」

――演出家との関係はどうだったんですか。

「俺は演出の言うとおりには描かなかった。シナリオのたれ流しのようなコンテを放り投げたりな。だから俺はかなり敬遠されたよね。
でも俺がコンテを切った回は話題になったよ。嵐老人が出る回とか。シナリオには”ただならぬ老人”と書いてあるだけなんだよ。
それを普通には描けないだろ。それでホテルの部屋に飛び散ったお茶を、嵐老人が湯飲みを持って空中ですくうんだ。
そんなのシナリオになかったけどな」

――タイガーマスクで特に記憶に残っている回とかは。

「『覆面ワールドリーグ戦』のエピソードだったかな、コンテを俺が全部直しちゃったの。あれね、どういう演出がまずいかというと、
たとえばシナリオに電話でのやり取りで長セリフがあるでしょ。それをつまんない演出では、受話器を持った人物をコンテで切っちゃうのよ。
馬場と伊達直人が、電話をこう持ってえんえん会話しているとかな。そんなの面白くないだろ。俺はだから、受話器を持ってる絵なんか一枚も
描かなかった。北風の吹く中、悩んでいる直人がコートのエリを立てて町を歩いているシーンにしてな。すると路の壁にワールドリーグ戦の
ポスターが剥げかけてて、はしっこがヒラヒラしてるんだ。アスファルトには水たまりができている。そこに直人の影が映っていると、
車が通って影がグチャグチャに歪むとかな。そこにオフで馬場との会話が流れるというふうにしたのよ。」

――それは完全に演出の仕事ですね(笑)。

「そうだよ。まあ、俺と組む演出は大変だよ。今はだいぶ丸くなったけどな(笑)」


色気がわかるアニメーターは少ない

――『タイガーマスク』の後に『空手バカ一代』もやられてますね。本当に格闘技専門アニメーターとして歩まれている。

「『空手バカ』は何話かやっただけだね。一応作画監督のテロップが出てるけど、10話くらいまで名前を貸しただけだよ」

――タイガーと空手バカで、馬場や猪木、大山倍達などとお知り合いになったとか。

「大山さんのことは会う前は、そんなに好きじゃなかったの。ショーマンシップに長けてい過ぎる所が感じられてさ。牛と闘ったりとか、
なんか見せ物みたいでね。でも実際に会ったら、魅力があった。大変気配りをする方なんでね。今でも覚えてるのは、大山さんくらい強い
と怖いものはないでしょって聞いたら、そんなことはないと。意外に思って聞き返すと、”飢えが怖い”ってね。デスマッチでアメリカとか
巡業したでしょ。その頃は食うや食わずだったようだから、よほど染みこんでるんだろうな。『空手バカ』はね、台湾に外注出したんだ。
それで俺も何度か行ったんだけどさ。間に入ったアニメ会社の奴が”木村さん台湾はいいですよお”っていうから、何がって聞いたら小指を
立てやがるから、”バカやろう、俺は女には不自由してねえよ”って怒鳴ってやった(笑)」

――ははは・・・・・・。

「大体女っ気のない業界だからね。いることはいるけど豚みたいなのばっかでさ。昔、ネオメディアって会社やってたころ、ハーフの女の子
が入ってきたことがあるのよ。結構美人でね、それで野郎どもが浮足だって仕事にならない。だいたいアニメってのは自分と向き合う孤独な
作業だからな。集中しねえとアクションなんか描けねえ。無の境地だよ。そのかわり遊ぶときは遊べばいいんだよ」

――昔の東映動画には、あまり遊び人はいなかったんですか。

「いないいない。遊んでたのは俺くらいだ。俺なんか夕方になるとさ、仕事放り投げて夜の町だよ。だから不二子の太股がどうしたこうした
程度で演出も作監もデレデレしちゃって、まるでガキのノリだよ。みんな色気もねえ連中ばっかりだ。実際俺は遊び回ってた。
新宿、池袋、高円寺・・・町の数が女の数。我が人生に悔いはないよ(笑)」

「K2」を作るまで俺はしねねえ!

――ところで木村さんは今、オリジナル新作を構想されているとか。「K2(カー・ツヴァイ)」という格闘アニメのパイロット(試作フィルム)
を作られているそうですね。

「これは俺のライフワークなんだ。俺が考えているのは現代のグラディエーター。戦いの連続、女に見向きもしないような。
主役のK2は国籍不明なんだけど実際は日本人なの。求道者的な男で、彼女もいなくていまだ童貞」

――でも商品として考えたら、多少は色気もないと(笑)。

「まあそうだけどさ。竹熊くんさ、かわりにプロット作らない?」

――いや、はははは。

「もっとストイックな主人公で。こないだ松井秀樹のドキュメント見たんだが、あの闘う姿に俺は泣いたよ。
「K2」ではけなげにひたむきに格闘技にうちこんでいる生き様を描きたいんだ。女なんざ、もののついででいいんだよ!
いや一応女のキャラも作ってるんだけどね(と、格闘ゲーム風の美少女キャラを見せる)」

――あ、こういうのもちゃんといるわけですね。

「でもベタベタしたものはないんだ!マトリックスじゃねえけど、ワイヤーアクションなんか消し飛ぶようなもの凄いアクションをやってやる。
水の上だって、ミズスマシみたいにビョーンとね。女のキャラもね、曙みたいな巨漢と闘うんだが、蹴りをズバッと入れるだろ、
すると女の足が曙の背中まで突き抜けるんだよ!背中の皮膚が足の格好してビョーンと」

――いや、凄すぎますよそれは。

「そいで設定の話だけどさ、ヒマラヤの奥地にアレン・コーポレーションという秘密基地があるわけよ」

――虎の穴みたいな。

「虎の穴より凄いんだよ!そこで浅間山荘の時みたいな鉄球で身体を鍛えている。考えうる限りの特訓をね。
アレンのボスがギリアム・アレンってんだけど、こいつがK2を仲間に誘うんだが、K2は組みはしない。ただアレンの娘がK2に想いを寄せていて・・・・・・」

――あ、ちゃんとロマンスもあるんじゃないですか。

「でもK2は見向きもしないんだよ!
 アクションもな、いろんなシチュエーションで描いてみたい。ギリシャの神殿とかな、いろんな場所で闘う。
音楽もバロックあり、ロックあり、イラクの民族音楽とかな。そこを見たこともないアングルで主人公が闘うんだ!
俺はこの作品に人生を賭けてるんだよ!」(以下木村氏、K2の原稿を取り出して解説をはじめる)
「ここでほら、ぐるっと回り込んでさ。ここで蹴りが入って。それでこうなって・・・・・(と原画をパラパラやって動かす)」

――うーん、凄い。

「こういうのはね、描きながら考える。これ色が付いた画面で見たら、見応えがあるよ。ここはこれで蹴り入れて、顔がパーンと飛ばされてさ。
これは12秒のカット。アニメでこんな長いカットはまずないよ。殴られるほうもただポケッと待ってるんじゃない。闘ってるんだからさ。」

――これはぜひ実現してほしいけれども、K1かプライドあたりがタイアップで乗ってくれれば。 

「まあパイロットだけはね、なんとかこちらで作ってさ。いくつか乗ってくれそうな会社も出てきたしね。
パイロット作ったら、そこから本格的な売込みだね」

――及ばずながらここで紹介させていただくことで援護射撃をしたいと思います。

「でも俺もさあ、適当だよな。カー・ツヴァイなんてドイツ読みにしてよ」

―K2とはどういう意味のネーミングなんでしょうか。
「キムラ・ケイイチロウでK2だよ!」